先週、石川のショウガ山という、残雪期のみ登られる山に雪を踏んで登ってきた。
白山を間近に眺められるとても展望の良い山だった。
その山に登ったときの話。
登山口になる深瀬大橋のたもとに朝6時過ぎに車を停めた。
こんなマイナーな山に私以外に先行者がいるとも思わなかったのだけど、
橋のたもとには、除雪車のほかにシルバーのワゴンが1台停まっていた。
おや、まさか先行者?
意外だなぁ。
橋は集落から少し降りたところにあり、橋の先は残雪が積もっていて、もう山しか無いので
たぶん山に登る人の車だろうと思った。
橋の先に歩いて登山口に向かっていくと、橋から雪に上がるところにくっきりと人の足跡が。
やはり先行者かな。
でもその足跡はすぐに分からなくなった。
その後、かなり急な斜面をがんばって登っていき、尾根らしい尾根に上がって一息ついた。
さあまだまだ頑張らなきゃと登りだしたとき、自分の足元を、かなり新しい足跡が前を歩いているのに気がついた。
その足跡はぴったりと私が歩きたいと思う合理的なルートを歩いており、
自分で言うのも何なのだけど、私は熟練者の足跡のように思えた。
その後、ルート中ずっとその足跡が前を歩いていた。
ついさっきそこを歩いたかのようにくっきりとした真新しい足跡。
けれど、足跡の主は稜線をどこまで見渡しても見えなかった。
私のように単独でこんなマイナーな山にこんな時期にやってきた登山者。
見えない相手に警戒心を抱く心とは別に、趣向が合うということで、親近感も湧いていた。
その後、大辻山というピークへ登り詰めた。
足跡の主が山頂でのんびり休んでいるのじゃないかと思ったけど、
意外にもだだっ広い山頂には雄大な景色が広がるだけで、誰の姿も見えなかった。
本日の目的地は大辻山ではなくショウガ山。
先行者も当然そうなのだろう。先へと進んだのだ。
足跡はショウガ山へと向かっていた。
それにしても見渡す限りの稜線のどこにも見えない。なんて速いんだろう。
展望の良い雪の稜線を満喫しながら、アップダウンを乗り越えながら
ショウガ山へと進んでいく。
足跡の主は適切にショートカットルートを選択している。
やはり熟練者か。
私も導かれるようにショートカット。
ついにショウガ山山頂へと登り詰める。
最後は急な雪の斜面をアイゼンに頼りながら登り詰める。
そうすると真っ白な雪原と真っ青な空が広がって
山頂付近の丘に登り詰めた。
目の前に白山の雄姿が迫る。
白と青の不思議な世界が広がっている。
その丘を登り詰めるとついに山頂だ。
でも、もう先行者はいないだろう。
案の定、誰もいない山頂に登り詰めた。
でも先行者の足跡はくっきりしている。やはり新しい。
誰もいない山頂と白山や周辺の山々の大展望を満喫したあと、
私も下山に向かった。
今回は来た道を戻るのでは無くて、別の尾根から降りる周遊ルートだ。
案の定、先行者も同じ方向に向かっている。
下山ルートも足跡が続いてくれれば楽だな、とチラリと思った。
この下山ルートの尾根が意外に難しかった。
地形が意外とわかりにくい。
下山する方面の支尾根への分岐点に辿りつき、支尾根を降りて行こうとするとき、
目の前の足跡が消えたような気がした。
ちょっと手前からショートカット気味に尾根に向かって降りていく足跡があったから
きっとショートカットするのだろうと思って少し戻ってその足跡をたどったら
なんとそれはカモシカの足跡だった。
若干きわどい雪面のショートカットになって肝を冷やす。
でもそれもあっという間で下山ルートの支尾根に乗れた。
ところが、その支尾根のどこにも先行者の足跡はなかった。
はて、他に下山ルートがあるのだろうか?
でもこの支尾根ルート以外で下山路になりそうなルートはどこにもない。
ということは、実はスキーヤーだったのだろうか?
スキーを背負っていたら分からない。
途中の谷間へドロップしたのだろうか。
それならきっと私よりずっと早く下山できるはずだ。
下山ルートの尾根は急傾斜なところも多く、狭いヤブ尾根になったりして苦労する道だった。
ようやく湖畔の林道に降り着き、隧道をくぐって深瀬大橋に戻ってきてホッとした。
深瀬大橋のたもとが見えた時、そこにシルバーのワゴンが停まっていることに気がつき
あれっ?と思った。
てっきり私はその車が先行者のものだと思っていたので、
既に先に降りて車は無いだろうと踏んでいたからだ。
ところが、その車は私の車のそばに朝のまんま停まっていた。
他に登山者の車のようなものはどこにも停まっていないし、ましてや電車もないし、
バスもたまに通るだけで、公共交通機関なんて利用できるような山ではない。
おかしいなあ。
でも下山した尾根には先行者の足跡は無かったし、
スキーなら私より早く降りているはずだし、
まさかあの尾根を支尾根に降りずにまっすぐ歩いて行ったのだろうか?
でもどこからも深瀬大橋に下山できそうなルートはないんだが・・。
一体、先行者はどこに行ったのだろう?
すぐ目の前に現れそうなほど真新しい足跡を眺めながら歩いたのに
一度も出会わなかった登山者。
そしてどこに降りたのかもわからない。
既に降りたのかどうかもわからない。
まさか道を間違えたとか、スキーで滑走中に事故したとか
遭難じゃないよね~?などと縁起でもない発想が。
なんだかもやもやと晴れない気持ちが残った。
けれど、天気は快晴で、山自体はとても満足できる登りごたえのある山行だった。
その後、帰って来て夜TVを見ていたら、ローカルニュースで金沢市の50代男性が遭難死というニュースをやっていてドキッとした。
でも、よく見たら野谷荘司山という別の山だった。
おいおい、あの山かよ。
あんな危なそうな山によくこの時期滑りに行くねー。雪崩の巣みたいな山じゃないか。
やっぱりやらかしたのか。
とか、今頃あの登山者も私と同じようにTVを見ていて、そんな風に思っているのかもしれない。